Les Liaisons dangereuses ラクロ99

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シャルル・モネ1976(public domain)

『危険な関係』ラクロ99

Les Liaisons dangereuses

1782年フランス作家コデルロス・ド・ラクロによって書かれた書簡体小説。18世紀後半のフランス貴族社会を舞台に、貴族社会の道徳的退廃と風紀の紊乱を往復書簡という形で活写した。なお、ラクロの本職は職業軍人であり、恋の駆け引きの描写は本格的な(軍事的な意味での)心理戦の域にまで達していると評される。
ウィキペディア(日本語)危険な関係1より

翻訳

01☞1929年『危険なる知己 矢口達訳 国際文献刊行会 (猟奇叢書 第1巻)
02☞1947年『危険な関係 伊吹武彦訳 各上下巻/ 初版 創元社〈創元選書〉 194。岩波文庫 1965年
03☞1951年『危険な関係 竹重頼久編訳 京橋出版社 抄訳版
04☞1960年『危険な関係』 竹村猛訳 角川文庫
(上下巻) 1960年、映画化で1冊本に改版 2004年
82☞1961年『危険な関係 現代版』品田一良訳
05☞1972年『危険な関係 近田武訳 潮文庫
06☞1972年『危険な関係 新庄嘉章窪田般弥新潮文庫(上下巻) 映画化で復刊 1988年
07☞1977年『危険な関係 大久保洋訳、講談社文庫(上下巻)/ 講談社『世界文学全集15 ルソー・ラクロ』1983年
08☞2014年『危険な関係』 桑瀬章二郎・早川文敏訳、白水社〈エクス・リブリス・クラシックス〉

映像化

10☞1976年『華麗な関係(フランス映画) 再びヴァディム監督で映画化。主演はシルヴィア・クリステル(87☞『エマニュエル夫人』、88☞『チャタレイ夫人の恋人』など)、ジョン・フィンチナタリー・ドロン(アラン・ドロン元妻)
13☞1988年『危険な関係3(アメリカ映画) ハリウッド映画化。
1988年のアカデミー賞脚色賞衣裳デザイン賞などを受賞
メルトゥイユ公爵夫人役グレン・クローズ(当時41歳)
14☞『危険な情事』15☞『マーズ・アタック!』16☞『101』17☞『エアフォース・ワン』18☞『アルバート氏の人生』19☞『天才作家の妻 40年目の真実』など
ヴァルモン子爵役ジョン・マルコビッチ(当時35歳)
21☞『シェルタリング・スカイ』22☞『太陽の帝国』23☞『ジキル&ハイド』24☞『マルコヴィッチの穴』25☞『クリムト』26☞『RED/レッド』シリーズ など
ツールヴェル法院長夫人役
ミシェル・ファイファー(当時30歳)
この映画で英国アカデミー賞助演女優賞を受賞。27☞『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズゴールデングローブ賞 主演女優賞、28☞『ラブ・フィールドベルリン国際映画祭銀熊賞 (女優賞)など
セシル役ユマ・サーマン4(当時18歳)
29☞『ガタカ』30☞『レ・ミゼラブル』31☞『宮廷料理人ヴァテール』32☞『キル・ビル』33☞『プロデューサーズ』34☞『Gガール 破壊的な彼女』など
ダンスニー役キアヌ・リーブス(当時24歳)
35☞『スピード』36☞『マトリックス』など原作は書簡文学ですが、この映画では手紙を書くテーブルに演出を凝らしています。

(サイト内リンク)20☞
グレン・クローズ出演作品ハムレット
ジョン・マルコビッチ出演作品『リバティーン

ミシェル・ファイファー出演作品真夏の夜の夢

アゾランはヴァルモン子爵の従僕だけど、37☞『源氏物語』惟光(これみつ)のようだ。プレイボーイの主人の意を汲んで手足となってはかりごとに協力する気の利く召使い。自分は自分で召使レベルで主人のようにプレイボーイぶりを発揮する。
このような召使ぶりの比較研究は面白いかも。

38☞1988年『恋の掟5(イギリス・フランス合作映画) 監督はミロス・フォアマン
アネット・ベニング(89☞『バグジー』、90☞『リチャード3世』、91☞『マーズ・アタック』など)
コリン・ファース(『椿姫』、93☞『シングルマン』アカデミー賞主演男優賞ベネチア男優賞、94☞『英国王のスピーチ』アカデミー賞・ゴールデングローブ賞主演男優賞、『恋におちたシェイクスピア』など)
39☞1999年『クルーエル・インテンションズ6(アメリカ) 舞台は現代のアメリカ、登場人物も高校生中心。
95☞2000年『クルーエル・インテンションズ27,8
96☞2004年『クルーエル・インテンションズ39
原作に基づいているという記述は3作目にはありません。
40☞2003年『スキャンダル10韓国映画
主演ペ・ヨンジュン(TVドラマ80☞『冬のソナタ』、81☞『太王四神記』など)「青龍映画賞 2003」で、最優秀作品賞、監督賞を受賞。
舞台は李氏朝鮮(1392~1897年)後期の両班社会で以下の登場人物におきかえられています。
(原作メルトゥイユ公爵夫人)政略結婚させられた、跡取りが生まれない貴族の正室チョ夫人。
この女性が図り事をする場面は、西洋の宮廷音楽のようなクラヴサン(チェンバロ)11らしい音色が効果的に使われています。
(原作セシル)中流階級出身の若い側室候補ソオク。
(原作ヴェルモン子爵)若いころ愛し合っていたチョ夫人と別れさせられた、官職につかない両班従兄弟ウォン。妻を亡くして以来独身のプレイボーイ。
(原作ダンスニー)隣家の左大臣の息子イノ
(原作ツールヴェル法院長夫人)婚約者が死亡して以来、貞節を守る貴族女性ヒヨン。左大臣夫人の姪で、国元の疫病の流行を避け隣家に滞在中。
ヒヨンは天主教(カトリック)の会合に参加しています。現在の韓国では仏教徒が22.8%、プロテスタントが18.3%、カトリックが10.9%、儒教0.2%ですが、プロテスタントとカトリックを合わせたキリスト教全体では29.2%となっていて仏教徒より多くなっています12。韓国には18世紀終わりころカトリックが入ってきたものの、19世紀以降、朝鮮戦争が終わるまで弾圧されていました。
41☞2003年『Les Liaisons dangereuses13(フランス・イギリス・カナダ TVドラマ)
主演 カトリーヌ・ドヌーヴ(70☞『終電車』セザール賞主演女優賞、71☞『インドシナ』セザール賞主演女優賞、72☞『ヴァンドーム広場』ベネチア女優賞、73『☞8人の女たち』ベネチア銀熊賞など)。ルパート・エヴェレット(74☞『アナザー・カントリー』、75☞『英国万歳』、76☞『恋におちたシェイクスピア』など)
ナスターシャ・キンスキー(『テス』ゴールデングローブ賞新人女優賞など)
リーリー・ソビエスキーほか、監督はジョゼ・ダヤン。
舞台は1960年代のパリで展開される。上映時間204分。
43☞2012年『危険な関係』14(2012年、中国韓国 映画) ホ・ジノ監督
舞台は1930年代の上海に置き換えた作品。

原作ヴァルモン子爵役チャン・ドンゴン(韓国)当時40歳(44☞友へ チング』など。)本作では富裕なプレイボーイ
ペ・ヨンジュン、イ・ビョンホン、ウォンビンと並び日本で韓流四天王と言われる俳優の一人ですが、奇しくも、ペ・ヨンジュンも韓国版40☞「スキャンダル」でヴァルモン子爵役を演じています)
原作ツールヴェル法院長夫人役チャン・ツィイー(中国)当時33歳 本作では遠縁の教師未亡人

45☞サイト内リンク『夜宴(女帝~エンペラー~)

原作メルトゥイユ公爵夫人役セシリア・チャン(香港当時32歳(『ワンナイト・イン・モンコック旺角黒夜2004年』など)本作では女実業家
原作ダンスニー役 ショーン・ドウ(中国)15

映画評論家 兼 弁護士坂和章平は、江戸時代のカッコイイ、身分いやしからぬプレイボーイ(?)の上級武士を主役とし、ご家老の奥方と結婚前に夫に急死された貞淑な人妻という組み合わせの日本ヴァージョンを空想しています16。プレイボーイ役に堺雅人か片岡愛之助、奥方役に宮沢りえ、貞淑な人妻役に宮﨑あおいをキャスティング。

セシリア・チャンは黒木瞳みたいだけど、振り返った感じが松嶋奈々子のようにも見える。ショーン・ドウはロンドンブーツ1号2号の田村淳17に似てるとも思う。

舞台

57☞1997年仮面のロマネスク19宝塚歌劇団雪組ミュージカル化(主演:高嶺ふぶき花總まり)。後、2012年宙組で大空祐飛野々すみ花主演、2016年花組で明日海りお花乃まりあ主演、2017年花組で明日海りお・仙名彩世主演で再演。
  • 58☞2004年『Divertissement』当初、英国国立バレエ団が作曲家Julian Philips にフルバージョンのバレエ音楽を依頼したものの舞台になる前にキャンセルされました。後に一部分が『Divertissement』に取り入れられました。
  • 59☞2008年『Dangerous Liaisons』オペラのバレエ版がAlberta バレエ団により上演。 20
  • 60☞2005年『危険な関係』演出・振付・主演アダム・クーパー(78☞マシュー・ボーン『白鳥の湖』など)でバレエ化。
  • 61☞2011年『Quartett』 イタリア人作曲家Luca Francesconiによるオペラ。スカラ座
  • 62☞2012年『Les Liaisons dangereuses』ジョン・マルコビッチ演出舞台。(マルコビッチは1988年ハリウッド映画版でヴァルモン子爵を演じています。)パリThéâtre de l’Atelier。
  • 63☞2012年『Las Relaciones Peligrosas』ミュージカル版。アルゼンチン、ブエノスアイレス
  • 64☞2014年『Valmont』Libor Vaculík演出バレエ。チェコ国立バレエ団。21
  • 65☞2019年Dangerous Liaisons22Liam Scarlett演出版バレエ。クイーンズランドバレエ団23
  • 83☞2020年『私の知らないわたしの素顔24』フランス映画。24歳と偽り登録したSNSで青年と知り合う、「危険な関係」を教える50代バツイチの大学教授を、ジュリエット・ビノシュ25(『嵐が丘』『ダメージ』『ショコラ』など)が演じます。原作は92☞『あなたが思う女』カミーユ・ロランス。著者は、ゴングール賞と並んでフランスの最も権威ある賞フェミナ賞26における10人の女性審査員の一人です。
カミーユ・ロランスの作品(フェミナ賞受賞)
(Amazonリンク)77☞2000年『その腕のなかで』 (新潮クレスト・ブックス)  Camille Laurens (原著), 吉田 花子 (翻訳)5つ星のうち2.0(2個の評価)

ラジオ

  • 66☞1992年『Woman’s Hour Drama』BBCラジオ 
  • 67☞1998年『危険な関係』 BBC World Service ニューヨーク・ラジオ・フェスティバルにてベスト・エンターテイメント・プログラム受賞。
  • 68☞2016年『Les Liaisons Dangereuses』London Stage production.

マンガ・小説

46☞2010年Griffin’s Law (Dangerous Relations) 』by Mary Anne Graham (Author)1.0 out of 5 stars(1 rating)
大勢の女性と関係を持つ主人公グリフィン教授は、多いに楽しみ決して一人に絞らないようにしていました。ただ、決して生徒には手を出さないので、“グリフィンのルール”と呼ばれ、毎年、そのルールを破ろうとする競争者たちが現れるのでした。

評論・論文

79☞1947年思想なき眼 —「危険な関係」に寄せて』 Kindle版 坂口 安吾 (著)
坂口安吾は「危険な関係」には著者ラクロの思想は反映されておらず、だからこそ、時代を超えて新鮮に読み継がれるといいます。
99☞1963年「ラクロ試論」 西川 長夫,Francia (1963), 7: 28-44, 1963-12-28
「危険な関係」が、女性の視点から女性の人間回復の問題を提出しているフェミニスト小説であるというロジェ・ヴァイヤン28(ゴンクール賞29,30を受賞した作家、1959年の映画化にも参画)の説を紹介しています。
メルトゥイユ公爵夫人=悪の権化vsツールヴェル法院長夫人=美徳の象徴という単純な見方ではありません。
男性視点の美徳は、男性の好みに合った鋳型にはめられ充足していることで、そのような“軽率な”女性は男性の陰にすぎない、といいます。それはヴァルモン子爵にとっては救いであるものの、それを「征服者の権利」として執行する男性(社会)に対して復讐をつきつけるメルトゥイユ公爵夫人にとっては自由のための闘いであるとも言えます。
そして、一見して共犯関係だったヴァルモン&メルトゥイユが実は敵対関係にあり、一見して加害者と被害者だったヴァルモン&ツールヴェルが実は共犯関係にある構図を「単なる嫉妬ではない」と指摘しています。
97☞1963年「女性論」と「危険な関係」 : ラクロとルソー, 松本 勤,Francia (1963), 7: 59-74,1963-12-28
ラクロは「女性と女性の教育について」の中で、“男女の不平等社会においては、女性の教育を改良するいかなる方法も存在しない”と結論付けています。
強者である男性の不平等な暴力に対抗するため弱者である女性は多くの術策を考え出したのであり、このような自然の状態からかけはなれた暴君と奴隷の歪められた人間関係の中では真の教育は存在しないとも述べています。さらに“女性の教育を可能にするものは革命しかない”とまで述べています。
本論文において松本勤は、小説「危険な関係」とフランス革命を結び付けたボードレール31(フランスの批評家『悪の華』など)の視点を紹介し、ラクロは、社会において女性が自由を獲得する唯一の手段の象徴としてメルトゥイユ公爵夫人の行動を描き、革命前の当時の閉塞した社会状況を批判していると論じています。
98☞ 1993年「作品の悪い読み : ラクロ『危険な関係』論」(Ⅰ),佐野 泰雄,一橋論叢, 109(3): 336-359,1993-03-01
この物語の貴族の中で、ツールヴェル法院長夫人だけが法服貴族32で、他は帯剣貴族であることが読み取れるといいます。当時は法服貴族は実態としてはほぼ世襲となっていたものの、売官制を利用して官職を購入し、法服貴族の列に加わる者も少なくなかったそうです。
帯剣貴族33の方が、世襲貴族で歴史が古く王に近かったので、法服貴族を差別する風潮があったとか。武官貴族であるヴァルモン子爵の従僕でさえ、文官貴族を侮る発言をします。
この論文では、帯剣貴族(武官貴族)の洗練と背徳vs法服貴族(武官貴族)の野暮ったさと真情が対立する構造が指摘されています。


  1. ウィキペディア(日本語)危険な関係
  2. ウィキペディア(日本語)危険な関係(1959年の映画)
  3. ウィキペディア(日本語)危険な関係_(1988年の映画)
  4. ウィキペディア(日本語)ユマ・サーマン
  5. ウィキペディア(日本語)恋の掟
  6. ウィキペディア(日本語)
  7. ウィキペディア(日本語)クルーエンル・インテンションズ2
  8. Wikipedia(Enflish)Cruel_Intentions_2
  9. Wikipedia(English)Cruel_Intentions_3
  10. ウィキペディア(日本語)スキャンダル(2003年の映画)
  11. ウィキペディア(日本語)チェンバロ
  12. ウィキペディア(日本語)韓国の宗教
  13. Wikipedia(English)es_Liaisons_dangereuses_(miniseries)
  14. 映画「危険な関係」公式サイト(日本語)
  15. 維基百科(中国語)竇驍
  16. 映画評論家 兼 弁護士坂和章平の映画日記>2014年 01月 23日 危険な関係(中国映画・2012年)
  17. ウィキペディア(日本語)田村淳
  18. Wikipedia(English)Quartet_(Müller)
  19. ウィキペディア(日本語)仮面のロマネスク
  20. DANGEROUS LIAISONS
  21. Valmont (Balet)Stavovské divadlo, od 26.06.2014
  22. QB>Dangerous Liaisons,22 March — 6 April 2019
  23. Wikipedia(English)Queensland_Ballet
  24. 私の知らない私の素顔(公式サイト)
  25. ウィキペディア(日本語)ジュリエット・ビノシュ
  26. ウィキペディア(日本語)フェミナ賞
  27. ウィキペディア(日本語)子爵ヴァルモン〜危険な関係〜
  28. Wikipedia(Enflish)Roger_Vailland
  29. ウィキペディア(日本語)ゴンクール賞
  30. Wikioedia(Enflish)Prix_Goncourt
  31. ウィキペディア(日本語)シャルル・ボードレール
  32. ウィキペディア(日本語)法服貴族
  33. Wikioedia(Enflish)Nobles_of_the_Sword

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