『ゴッド・ガン』バリントン・J・ベイリー

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CONTENTS『ゴッド・ガン』バリントン J ベイリー(ハヤカワ文庫SF) 早川書房1収録

  1. 『ロモー博士の島 The Island of Dr Romeau』中村融訳
  2. 『邪悪の種子 The Seed of Evil』中村融訳.
  3. バリントン・J・ベイリー
1.『ロモー博士の島 The Island of Dr Romeau』中村融訳バリントン J ベイリー

性的傾向(異性愛・同性愛の好み)逆転錠が、どこの薬局でも売られるようになる。
(好きなときに薬によって異性愛者や同性愛者になることができる)

われわれの目的は、世界に幸福をもたらすことにある。

じつをいうと、性的な充足だけが幸福をもたらすのだ。科学が人間活動のほかのあらゆる分野を拡張してきたのとまったく同じように、われわれは 科学を用いて、性的満足の 領域を拡張することをめざしておる。

では、数時間だけきみを異性愛から同性愛に切り替える錠剤があるとしたらどうだね?それがどういうものかを知るためだけに、その錠剤を服用したいと思わないか?

知りたがるのはもの好きだけだ、と人は考える─ ─もしそうでないとしたら、新しい経験から尻ごみするのは、すこしばかり臆病ではないかね?

SOR─性的傾向逆転(セクシュアル・オリエンテーション・リヴァーサル)─錠が、どこの薬局でも売られるようになる。

いったん人々が思いのままに性的傾向を切り替えられるようになれば、人間の温情の新しい次元が社会に浸透すると信じておる。友人はより親しい存在となり、偏見と不安は消えてなくなるだろう。

しかし、考えてみたまえ。正直になりたまえ。きみは自分のペニスを崇めているのではないかね?それはあらゆる男性の生涯にわたる遊び友達ではないかね?きみがそれに感じる特別な関係、あるいはおとなになってから歳月を費やして、それをいじり、もてあそび、賞賛し、最後の一滴まで快楽を絞りとってきたことを否定するのはやめたまえ。おや、顔を赤らめているね!たしかに、単刀直入すぎたかもしれん。だが、これがわたしの職業なのだ。性的傾向にかかわりなく、あらゆる正常な男性について述べているにすぎんのだ。

あの哀れな男は、同性愛恐怖症を隠しきれない─ ─知ってのとおり、心からくつろげないのはそのせいなのだ。数時間でも百パーセント同性愛者になれば、あの男にとっていいことずくめだ。おまけに、被験者はいくらでも必要ではないのかね?

H・G・ウエルズの名作 『モロー博士の島』(他の生物を人間のように改造するという設定)1989年23へのオマージュ。主人公の名前は、同書の主人公のもじり。博士の助手の名前は、ウエルズのファースト・ネームと同じ。この短編は1995年に発表された。

性的傾向(LGBTなど)について理解がすすんだ現代では、頑なに異性愛(ヘテロ)にこだわる男性を揶揄する物語は、あまり衝撃を受けない。日本はともかく、この短編が発表された1995年イギリスでの性的傾向に関する一般的な理解と受入れ具合はどのようだったのか?

『モロー博士の島』から着想を得たジーン・ウルフの短編集に『デス博士の島その他の物語』4がある。

2.『邪悪の種子 The Seed of Evil』 中村融訳バリントン J ベイリー

刑罰としての不死性 おのれの犯罪の絶え間ない後悔と狩り立てられる運命

「不死と引き替えになにをあきらめるつもりなの、ジュリアン?これをあきらめるつもり?」「なにもかもあきらめるつもりだ」

ホモ・サピエンスは、数百万年でも数年でもなく、数万年の期間で霊長類の系統から出現した。そして種属の死は、誕生とまったく同じように突如としてやってきたのだ。遺伝時計の砂が尽きるにつれ、出生が減少し、社会は瓦解して、人類の活力は完全に消滅した。

「いま話題にしている生物たちは、彼らが経験した最悪の犯罪者、口にするのもはばかられる行為に進んでかかわり、良心のとがめも受けない個体に対処するという問題に直面した。もっともふさわしい刑罰は、まず 彼を作り替え、つぎにおのれの犯罪を絶え間なく後悔させることだ、と彼らは決定した。不死性はこの両方の目的にかなった。しかもそれだけではなかった。きみが喉から手が出るほどほしがっている生命には、べつの側面があるからだ。つまり、きみだけが所有する不死性をほしがる者たちによって狩りたてられる運命にあるということだ。」

自分だけ不老不死でいるのはつらいという趣旨の小説は少なくない。しかし、「より若く」「死にたくない(死ぬのが怖い?)」という気持ちは現在に生きている人の欲望として存在する。不老不死はどの程度までOKでどの程度からつらいのだろうか?

3.バリントン・J・ベイリー

バリントン・J・ベイリー25(Barrington J. Bayley, 1937年4月9日 – 2008年10月14日)はイギリスのSF作家。

時間線が衝突するという『時間衝突』6、「服は人なり」という哲学を小説化した『カエアンの聖衣』7などの、奇想天外なアイデアと奇妙なガジュット2(道具・装置)が頻出する特異なスタイルで人気を集めた。『ロボットの魂』8『光のロボット』9は、自由意志を持つロボットのジャスペロダスの活躍する連作で、アイザック・アシモフの諸作とはまったく異なったスタイルのロボットSFとして注目される。

『シティ5からの脱出』10は、ワイドスクリーン・バロックの鬼才として著名な作者が、奔流のようなアイデアと、めくるめく華麗なイメージで読者を魅了する九篇を収録した傑作短篇集!


 

  1. バリントン J ベイリー. ゴッド・ガン (ハヤカワ文庫SF) 早川書房.
  2. ウィキペディア(日本語)
  3. 『モロー博士の島』 (偕成社文庫) 1996/8/1 H.G. ウェルズ (著), 佐竹 美保 (イラスト), H.G. Wells (原著), 雨沢 泰 (翻訳)
  4. デス博士の島その他の物語』(未来の文学)2006/2/1ジーン ウルフ (著), Gene Wolfe (原著), 浅倉 久志 (翻訳), 柳下 毅一郎 (翻訳), & 1 その他
  5. Wikipedia(English)
  6. 時間衝突』【新版】 (創元SF文庫)  2016/9/25 バリントン・J・ベイリー (著), 大森 望 (翻訳) 
  7. 『カエアンの聖衣』〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF) 2016/3/24 バリントン・J・ベイリー (著), 大森 望 (翻訳) 
  8. 『ロボットの魂』 (創元SF文庫) 1993/9/1バリントン・J. ベイリー (著), Barrington J. Bayley  大森 望 (翻訳)
  9. 『光のロボット』 (創元SF文庫) 1993/11バリントン・J. ベイリー (著), Barrington J. Bayley , 大森 望 (翻訳)
  10. シティ5からの脱出』 (ハヤカワ文庫SF)バリントン J ベイリー (著), 浅倉 久志 (翻訳)

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