マシュマロ・チャレンジ
イテレーティブ(反復)デザイン
マシュマロ・チャレンジはイテレーティブ(反復)デザイン1の1種です。
—– イテレーティブ(反復)デザインとは
イデレーティブ(反復)デザインとは「プロトタイプ(試作)」と「テスト」と「分析」のサイクルを繰り返しながら製品の品質や機能をより洗練させていく、デザイン理論です。
1988年、Barry Boehm(バリー・ベーム)が A Spiral Model of Software Development and Enhancement(ソフトウェア開発と改良のスパイラルモデル)という記事で提唱した、スパイラルモデル2理論が元になっています。トップダウン設計とボトムアップ設計の長所を生かしたソフトウェア開発工程のモデルとされ、「目標設定」→「リスク特定と対応」→「開発とテスト」→「次の反復の計画」を繰り返す手法です3。
1回のループは6ヶ月から2年とされていましたが、最近は小規模プロジェクトでは、1~4週間程度の反復を繰り返すアジャイルソフトウェア開発手法も使われるようです。
—– イテレーティブ(反復)デザインの効果
イテレーティブ(反復)デザインは、開発初期の変更は容易で安価であることから新商品の開発によく使われます。グループで議論しながら、ユーザーに受け入れられるレベルま、プロトタイプの反復プロセスを繰り返します。研究によるとイテレーティブ(反復)デザインの手法は下記のような利点があります4。(日本語は意訳)
- 間違った理解があれば開発初期にわかるので、やり直しが可能
Serious misunderstandings are made evident early in the lifecycle, when it’s possible to react to them. - ユーザーのフィードバックが得られるので本質的な要求を引き出せる
It enables and encourages user feedback, so as to elicit the system’s real requirements. - デザイン(設計)プロセスに複合的に顧客を巻き込める
Where the work is contracted, Iterative Design provides an incremental method for more effectively involving the client in the complexities that often surround the design process. - 開発チームが最も重要な問題に注力し、プロジェクトのリスクとなるような問題からメンバーを守ることができる
The development team is forced to focus on those issues that are most critical to the project, and team members are shielded from those issues that distract and divert them from the project’s real risks. - 何度もテストをすることで、プロジェクトの目的に対してどの程度近づいているか評価できる
Continual testing enables an objective assessment of the project’s status. - 要求やデザインとの矛盾や充足を、早い段階て見つけることが可能
Inconsistencies among requirements, designs, and implementations are detected early. - チームの(特にテストチームの)作業を、かたよらずにライフサイクル全体に広げることができる
The workload of the team, especially the testing team, is spread out more evenly throughout the lifecycle. - 学んだことをすぐにチームに展開でき、継続的にプロセス改善できる。
This approach enables the team to leverage lessons learned, and therefore to continually improve the process. - プロジェクトの間の各段階に、ステークホルダーに明確な根拠を提示することができる
Stakeholders in the project can be given concrete evidence of the project’s status throughout the lifecycle.
マシュマロ・チャレンジ
—– マシュマロ・チャレンジとは
マシュマロ・チャレンジは、イテレーディブ(反復)デザインの教育などに利用されます。グループ(4人一組など)対抗で、18分間でマシュマロと20本のスパゲッティを使って、どれだけ高い構造物が構築できるかを競います。ビジネス・スクールの学生よりも幼稚園児の方が高く作れたことから有名になりました。
これは、幼児はマシュマロを手にするとすぐに、色々な方法で実際に手を動かしてつくりはじめるのに対し、学生達は完璧なものを作ろうとして計画と設計に時間をかけ最後の数分でつくりはじめ(て壊れ)るからと説明されています5。
(ただし幼稚園児の場合は途中で食べちゃう子がいるので大人よりたくさんマシュマロが必要とか)
マシュマロチャレンジ協会2では準備物や手順を具体的に紹介しているほか、TEDでのプレゼンテーションビデオも公開しています。
【用意するもの】
乾燥パスタ:20本(1.7mm推奨)
マスキングテープ:90cm
ひも :90cm
マシュマロ:1つ
はさみ:1つ
メジャー:1つ(記録測定の為)
【ルール】
4人1チームで、作戦タイムも含めて18分間で行います。
自立可能で出来るだけ高いタワーを立て、タワーの上にマシュマロを置きます。(パスタに刺してもOKです)
テープで足場を固定してはいけません。
パスタやテープ、ひもは切ったり、貼ったりするのはOKです。 マシュマロは切ってはいけません。 計測の最中もタワーが立っていなければ、記録とはなりません。 (マシュマロ・チャレンジ協会HPより)
このプレゼンテーションでは、ビジネス・スクールより幼稚園児の成果が高かったことの他、CEO達だけよりファシリテーターが入った方が成果が上がること、報酬はスキルのあるチームに対して設定すると効果が上がることなどを紹介しています。
—– マシュマロチャレンジの体験効果
- チームビルディングとしての効果(マシュマロ・チャレンジ協会)
共通目標に対してみんなで協力して挑むことで「役割分担」や「コミュニケーション」の重要性を体験を通して学ぶことができます。
なによりも「一緒に悩み、かつ、楽しむ」体験がチーム形成にはとても重要です。 - プロトタイプの重要性を実感する効果
特にこれまで経験したことがない、かつ与えられた時間などの資源が限られているプロジェクトの場合は、(実際に手を動かしながら)作ってはやり直すというプロトタイプの反復の中で、早い段階で失敗や成功、テストなどを行い情報を得、イテレーション(反復)デザイン(設計)の手法が効果的です。
例えば、実際に体験してみると、想像しているイメージよりもマシュマロが重いことやパスタがしなることがわかります。そこでプロトタイプで試してみるわけです。 - PDCAとして教訓を生かすことやプロジェクト・マネジメントの重要性に気づく効果
複数回の体験を行う場合は、前回の反省を次回に活かすことを学びます。成果物についてだけでなく、役割分担、タイムスケジュール、リスクなどマネジメントのやり方についても前回の反省を活かし次につなげます。
その他のチャレンジ
—– ペーパータワー・チャレンジ
マシュマロ・チャレンジとよく似た体験型学習に「ペーパータワー」があります。
A4の用紙(30枚~無制限)を使って決められた時間内(30秒~120秒)に出来るだけ高いタワーをチームで作成します。
実際の作業の入る前に作戦会議(5分間程度)の時間やA4用紙を1枚だけシミュレーション用に与える方法もあります6。
マシュマロ・チャレンジのように、チーム・ビルディングや教訓やマネジメントの重要性に気づく目的で行われるほか、タワーの高さを売上、使用した紙の枚数を経費として利益を競う会計教育に使われる場合もあります7。
A4の用紙は、学生や社会人にとってなじみがあり、折り曲げたりした時の強度などのイメージがわきやすく、イメージと実体の乖離が少ない素材です。
ところが、マシュマロやパスタは、日常的に手に取って折り曲げたりすることのない素材なので、マシュマロが思ったより重いとか、パスタは以外としなるとか、イメージと実体が合わない方が多い素材です。したがって、マシュマロ・チャレンジ方が失敗する確率が高くなります。
—– ストロー橋
グループで、与えられたプラスチックのストロー(50~400本)を使って2台の机の間に掛ける橋を作ります。その橋に水を入れたバケツを吊り下げ、橋が崩壊しない重さを競います。一般的に橋は複数回作成します。
株式会社富士ゼロックスは問題解決の技法を習得させるために、毎年新人研修で行っています8。
近年では学校教育にも取り入れられています7。
パスタを使ったマシュマロ・チャレンジに比して、技術教育として以下の特徴があるといいます9。
(1)材料が筒であるということ。つまり「薄い、軽いわりに丈夫」を体感できる。
(2)断面の精度に気づかせやすいこと。直径5mmの筒のため、断面の角度や切り方もよく見える。
(3)材料がプラスチックであること。細く切って、机の角などでしごきながら引っ張ると、摩擦熱で細く長く柔らかい紐ができる。つまり、プラスチックの特徴を生かして材料自体を加工できる。
(4)材料が安いこと。250本入りで108円(税込み)でした。できれば曲がらないストローの方が、丈夫でごみも少なく製作させることができる。
(5)片付けのとき、分別しなくてよいこと。「廃棄」に関する環境面にも触れられる。 (2時間でできた「班対抗ストローブリッジコンテストより)
摩擦熱で伸びる特質は、パスタやマシュマロより、更にプロトタイプによる発見の重要性に気づけることでしょう。
橋梁の工法など事前の知識に左右されてしまうところがあり、時間がかかることが問題と言えます。株式会社富士ゼロックスの新入社員研修では3日間かけてみっちり学習していますが、技術教育としてアレンジされたケースでは2時間でできるよう工夫しています。
- Wikipedia(English)Iterative Design
- ウィキペディア(日本語)スパイラルモデル
- Wikipedia(English)Spiral model
- Mantei, Marilyn M.; Teorey, Toby J. (1988). “Cost/Benefit analysis for incorporating human factors in the software lifecycle”. Communications of the ACM. 31 (4): 428–439. doi:10.1145/42404.42408.
- Jerz, Dennis G. (2010-05-10). “The Marshmallow Challenge – Jerz’s Literacy Weblog”. Jerz.setonhill.edu. Retrieved 2010-08-10.
- 工学教育,58 巻 (2010) 2 号,エンジニアリングファシリテーション主体性を引き出す導入のスキル,大石 加奈子
- 「ペーパータワー」を用いた会計教育の取り組みとその効果 ,潮 清孝(中京大学)
- 日経ものづくり2009年7月号,問題解決力を新人にたたき込む,富士ゼロックスの「ストロー橋」実習
- Gijyutu.com>2時間でできた「班対抗ストローブリッジコンテスト」
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