『White Queen』Philippa Gregory

『白薔薇の女王』フィリッパ・グレゴリー

白薔薇の女王 The White Queen2 (MF文庫ダ・ヴィンチ) 文庫 – 2011/4/22 フィリッパ・グレゴリー (著), 江崎 リエ(翻訳) (翻訳)上巻下巻

エドワード4世の妃エリザベス・グッドヴィルの視点から薔薇戦争を描きます。

メリジェーヌ

主人公の母、ブルゴーニュ公国出身のジャケッタは、伝説の水の精メリジェーヌを思わせるような描かれ方をしています。
メリジェーヌ1は、セイレーンなどが原型と考えられ、上半身はドラゴンの羽根を持つ女性、下半身は蛇または魚の姿で描かれる怪物2です。
7~8世紀頃に出版された『怪物の書3』にも掲載されていますが、ギリシャ語やラテン語の“羽根“と“鱗”が似た発音だったので、セイレーンの下半身が鳥から魚に変化したそうです。船の羅針盤が発明され、船の進路の目印が陸地のものから海のものに変化したからとの説もあります4
二股にわかれた魚の尾は古くアジアを起源とするものとか5
コーヒー店スターバックス6の店名の由来は、メルヴィルの『白鯨』に登場する捕鯨船の副船長の名前で、船乗りと関連が深いセイレーンを企業ロゴとして取り入れています。
フランスでは14世~15世紀紀頃に書かれた物語にメリジェーヌが登場しています。Mélusine(メリュジーヌ)の名は、Mère(母)とLusignan(リュジニャン一族)の合成語だと考えられているそうです。リュニジャン家7は、フランスの古い一族で、フランスの貴族である他、アルメニアやエルサレムの王を輩出しています。
12世紀に、イングランドのジョン王の妃イザベラ・オブ・アングレームはリュニジャン家の当主と再婚しました。ジャケッタの母はジョン王の直系子孫であることや、エドワード4世と結婚した娘エリザベス・グッドウィル(後の全イングランド王の祖先)の母であることなども、ジャケッタをメリジェーヌに結びつける由来とも考えられそうです。
また、メリジェーヌが結婚した相手としてリュニジャン家の他にも、スコットランドと関係が深いアルバニー公や、ジャケッタの実家リュクサンブール(ルクセンブルグ)家の祖先ジークフリート8という説があります。10世紀半ば、ジークフリートは「Lucilinburhuc」といわれた岩の多い地域と、トリーアの聖マクシミン修道院から川の使用権も手に入れた9とされ、川に関連する実績の残る人物です。
ジャケッタの再婚相手はヘンリー6世からリヴァース男爵(Baron Rivers)に叙され、その後エドワード4世の義父としてリヴァース伯爵の称号を与えられました。10。これは、地名ではなく、デヴォン伯となった古い一族Redver家に由来します。ノルマンディー時代のフランス北西部にある3本の川に挟まれたReviersという土地出身の一族の名前です11。川そのものが爵位名ですね。

なぜグッドウィルさんがリバース男爵なんだろう。
その家系の出身か?それもとルクセンブルグの水の妖精メリジェーヌに関連付けたジャケッタさんの夫だからかな?

泉の妖精とスコットランドのオルバニー公の娘との伝説があり、水に関する妖精の一種とされます。下半身の魚は、マーメイドの伝承とも関連しているそうです。
  1. ウィキペディア(日本語)メリジェーヌ
  2. 松平俊久『図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』蔵持不三也監修、原書房、2005年3月
  3. ウィキペディア(日本語)怪物の書
  4. 吉川豊『ドキドキ!モンスター博物館』理論社、1999年
  5. 松平俊久「セイレン」『図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』蔵持不三也監修、原書房、2005年、108-111頁
  6. ウィキペディア(日本語)スターバックス
  7. ウィキペディア(日本語)リュニジャン家
  8. ウィキペディア(日本語)ジークフリート(ルクセンブルグ伯)
  9. Kreins, Jean-Marie. Histoire du Luxembourg: des origines à nos jours. Presses universitaires de France. (2007)pp.19
  10. Wikipedia(English)Earl_Rivers
  11. Wikioedia(English)Revires

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