『女王陛下のお気に入り』英国アン女王(在位1702~1714)と男性用ウィグ

Yukipedia

映画『女王陛下のお気に入り』

(Amazonリンク)女王陛下のお気に入り1

18世紀イギリスの女王と二人の側近女性の勢力争いを描いています。
コールマンの主演女優賞ほか、様々な賞を受賞しています1
また、コールマンは英国勲章(コマンダー章(CBE))1を授与されました2

👉王配ジョージ・オブ・デンマークは1708年に亡くなり、アン女王が1714年に崩御するまでの時代。史実では、1708年には既にサラが引退、アビゲイルは結婚していましたが、その時の年齢は、アン女王43歳、サラ48歳、アビゲイル37歳。

👉英語題は「The Favourite」。普通名詞では「お気に入り」という意味ですが、側近、寵愛者、優勝候補などという意味でも使い、特に君主から特別の寵愛を受け政治的な影響も与えたような人物をいいます。16世紀頃から政府が大きく複雑化することに伴い、能力や興味を持たない世襲の君主がFavouriteを必要としました。ヨーロッパ、特にフランス、スペイン、英国、スウェーデンなどで有名なFavouriteがおり3、Wikipedia(English)4には、サラとアビゲイルの他、マリー・アントワネットのランバル侯夫人、エカテリーナ女王のポチョムキン、ロマノフ皇帝一家のラスプーチンなどが例示されています。肉体関係が存在する場合もありますが、恋人(lover)、公妾(royal mistress)5、友人(friend)などとは違った全幅の信頼を置く人物の意味合いがあります。

エリザベス女王のロバート・ダドリー卿はFavoriteなのか?あまり政治的に影響を受けていないから単なる愛人か?
ヴィクトリア女王の庭師やインド人は?国内政治に影響を及ぼすほどではないので単なる友人か愛人か?

 

アン女王の時代

18世紀初頭の男性のウィグ(かつら)アロンジュ

https://finearts.illinoisstate.edu/lmlowel/the331/images/Rococo/wigs1sthalfWeb.jpg

ヨーロッパ文化の様式は、ルネッサンス1の後、17世紀はバロック1、18世紀のロココ1へと続きます。バロックからロココへ変わっていく1708年頃の男性のファッションにウィグ(かつら)があります。

ウィグの語源は、プロバンス語の(perucat=美しい頭髪のオウム)→イタリア古語で毛髪を意味するパルッカ(parrucca)→イタリア語のペルッカ(perruca)→14世紀フランス語のペリューク(perruque)→英語(peruke,periwig)→(periwig)が省略されて(wig)と変遷してきたそうです。wigの初出は1675年とか。6

Koninklijk Koetsier/by Effeietsanders, Rijksoverheid.nl

ルイ13世7が22歳(1623年頃)で若はげを隠すためにかつらを着用したのが、流行のはじまりと言われ1680年代までには一般的になりました8。1700年代前半は様々な色のかつらが使用されましたが、白が最も一般的でした。前世紀後半から続く、カールした髪を頭の上に二つの角のように盛り上げ、巻き毛を胸や背に長く垂らすスタイルは「アロンジュ」といわれます9。アン女王時代のアロンジュには10人分もの毛髪が使用されていたそうです。10

最初はルーズだった巻き毛は時代が下るにつれてタイトになっていきます。この後、流行した三角帽子1,11にあわせて後に耳の横でカールさせて後ろでリボンで括るスタイルに変わっていきます12。かつらの場合にはひげは伸ばさないのが一般的です。13

File:Louis XIV of France and his family attributed to Nicolas de Largillière.jpg

この映画では、男性は長髪をカールしたかつらを使用していますが、好戦派の旧世代は茶色、民主派の若い世代は白で、流行の変遷を表現しているようです。右図は、この映画の時代にあたる1710年頃に描かれた肖像画で、茶色のかつらがフランス王ルイ14世(1638~1715)14、白い(ブロンドの)かつらが王太子ルイ(1661~1711)です。

 

王太子ルイの子(ルイ14世の孫)ルイ15世の時代になると、白髪で横カール後ろリボンのスタイルのウィグが正装の主流になります。

←『ルイ15世』モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール画、1748年

(リンク)かつらの歴史
アデランスでウィッグ(かつら)の歴史を研究している教育指導部の益子達也さんへのインタビュー。世界および日本のウィッグの歴史について興味深い記事が掲載されています。
古代エジプトでかつらが使われていたことはよく知られていますが、日本古代では、国産み神話のイザナギの妻イザナミがかつらを投げつけた記述があるそうです。『古事記』が編纂された712年頃の風習が反映されたと考えられるとか。
かつらの語源は、「か=髪」+「つら=つる=つるくさ(蔓)」と考えられているそうです。

コメディ映画『イエロー・パイレーツ』のアン女王とサラ

1983年イギリスの『Yellowbeard15(邦題イエロー・パイレーツ)』という映画にもアン女王とサラが登場します。海賊イエロービヤードの1チャップマン、エリック・アイドルなどのモンティ・パイソン(コメディアン・グループ)や、チーチ&チョン16(コメディ・デュオ)が出演するコメディ映画です1アン女王を男性の性格俳優ピット・ブル1,17(ブル男爵18の末息子)が鈍重な感じで、サラをスザンナ・ヨーク1(別映画で英国アカデミー主演女優賞やカンヌ主演女優賞等を受賞)が、才色兼備な感じで演じています。

(動画リンク)『YellowbreadVEXMOVIES>yellowbeard

 


 

  1. ウィキペディア(日本語)女王陛下のお気に入り
  2. オスカー女優オリヴィア・コールマンさんに大英勲章、2人の英女王演じるAFPBB News 2019/06/09 19:20
  3. Elliott:5, summarising the work of French historian Jean Bérenger
  4. Wikipedia(English)Favourite
  5. Wikipedia(English)Royal_mistress
  6. 薄毛・抜け毛にお悩み解決 アデランスの最新情報>カミわざ>髪に関する豆知識>かつらの歴史 第1回 古代における世界のかつら・ウィッグの始源
  7. ウィキペディア(日本語)ルイ13世
  8. Wikipedia(English)1650-1700in Western Europian Fashion
  9. ウィキペディア(日本語)西洋の服飾(17世紀)
  10. 薄毛・抜け毛にお悩み解決 アデランスの最新情報>カミわざ>髪に関する豆知識>かつらの歴史 第3回 18世紀~現代のかつら・ウィッグ世界史
  11. Wikipedia(English)Toricone
  12. PRIYANCA
  13. Wikipedia(English)1700-1750in Western Europian Fashion
  14. ウィキペディア(日本語)ルイ14世
  15. Wikipedia(English)yellowbeard
  16. Wikipedia(English)Cheech&chong
  17. Wikipedia(English)Peter Bull
  18. Wikipedia(English)Sir William Bull, 1st Baronet

コメント