『BRIMSTONE』

Yukipedia

BRIMSTONE 1
Directed by Martin Koolhoven ,
Staring2;ダコタ・ファニング3、ガイ・ピアーズ3

プロテスタントの家族システムの極端(狂信的な)解釈の事例。どこでも起こりうることではあるものの、題材を米国の西部開拓時代のオランダ人牧師一家の話と設定して、西部劇の味付けをすることによって、男性優位社会とそのの中で強く生きる女性の姿を強調しているようです。

「彼女は戦う女性だった。戦わなければ生きられない時代だった」

第1章 啓示 黙示録

ヨハネの黙示録3」は、新約聖書の中でも特異な書物で、将来起こることが書かれているとの解釈やヨハネの麻薬の幻覚である説などキリスト教徒の中でも、様々な議論があるそうです4

プロテスタント3のうちカルヴァンの宗教改革3の派閥は「カルヴァン派」や「改革派」とよばれ、オランダから北米にわたってきた人も多いそうです3。主要キャストの牧師家族は、オランダから渡ってきて間もないという設定ですから、プロテスタント改革派という設定ではないでしょうか。この映画は、オランダ人監督5の元、主としてオランダ国際プロダクションにより制作されているので、そのあたりの宗教的な背景もよく盛り込まれていることだと思います。ただ日本人には一般的ではない背景もわかりにくいので、日本では公開されなかったと思われます。プロテスタントでは偶像崇拝は禁じられており、ヨーロッパ映画のカトリック系の教会と違って、正面にイエス様の像は配置されていません。

なるほど。外国観光で教会に行った時はイエス様の像があるかどうかでカトリックかプロテスタントかの判断の参考になるね。

日本では教会はホテルの結婚式場に併設されているのをみかけるけど、イエス様の像がなければプロテスタントなのかな?少なくともカトリックではない、ということかな?

安藤忠雄 光の教会(CC)taken by Bergmann – ja:Image:Ibaraki_Kasugaoka_Church_Light_Cross.JPG

多くの西方教会では「永遠の地獄」(大罪を犯したまま神から永遠に離れた状態でいること)を認めていますが、プロテスタント改革派は、その根拠を黙示録にあるとしています。3

  • 黙示録 20:10 「そして、彼らを惑わした悪魔は火と硫黄との池に投げ込まれた。そこは獣も、にせ預言者もいる所で、彼らは永遠に昼も夜も苦しみを受ける。」(新改訳聖書3
  • 黙示録 21:8 「しかし、おくびょうな者、信じない者、忌むべき者、人殺し、姦淫を行う者、まじないをする者、偶像を拝む者、すべて偽りを言う者には、火と硫黄の燃えている池が、彼らの受くべき報いである。これが第二の死である』。」(新改訳聖書)

火と硫黄は英語でfire and brimstone6,7で、神の怒りをあらわす英語の慣用句となっており、この映画の題名の出典はこのあたりだと考えられます。英語の聖書の最初の記載は、長くスタンダードであったキング・ジェームズ版です。

ところで地獄に落とす(落ちる)ことや天罰のことを英語ではdamnation2,3といいますが、ダムも同じ語源です。中世オランダ語のdamから派生したと考えられています。オランダは海抜が低いので、堤防を築くことが多かったので、川をせき止めるもののことをdamといい、上から下へ水が落ちる様子も意味するようになったようです。アムステルダムやロッテルダムはアムステル川やロッテル川にダムが設けられた街なのだそうです。3

第2章 脱出 出エジプト

1862年に米国で制定された「ホームステッド法(自営農地法)3」は、160エーカー(約64.6ヘクタール)の土地に5年間住んで耕作すれば、公有地を無償で払い下げるというものでした。

西部開拓時代3の米国の性別比率は、女性1に対して、少ない説では男性1.3、多い説では男性3の割合なのだそうです。いずれにしても、女性が随分少ない社会です3

同時代の1867年(慶應3年)の江戸の一般市民の性別比率は、女性268,561:男性269,902
(1:1)です。3
 江戸時代中盤の1722年(享保7年3)には町方人口で女性170,471:男性312,884
(1:1.8)、もっと前の江戸時代初期には1:7だったとの研究もあります。3
 ちなみに江戸の武家性別比率は、1735年(享保20年8)に女性8,600,950:男性227,485,000(1:1.26)。

現代(2015年)の東京の人口は、総数は女性の方がやや少なめですが、小数第一位で四捨五入するとほぼ1:1です。3

一人っ子政策の影響で、男女比率が偏っているといわれている中国の性別比率は、女性:男性は1:1.2程度です。9

入植や開拓など、地域の黎明期は極端に女性が少ないのは仕方がない。娼館が発達しただろうな。

・そのような娼館に努める女性はどのような境遇だったのだろう。娼館での状況や、どのような人が娼婦になったのか。女性が少ない社会なら娼婦にならなくてもよかったのではないか?借金など大きなお金が必要な女性だったに違いないが、そのような女性は多かったのか?そのような状況になった女性にはどのような背景の人が多かったのだろうか?

・日本の吉原との比較、土地開発の黎明期の娼館の国別の比較

・都市の黎明期(江戸時代初期)と成熟期(江戸時代後期、京都島原など)の娼館の違いは?

・からゆきさん、じゃぱゆきさんもそのシステムで話せるかな?

・Y染色体とミトコンドリアの分布との関係を、ブライアン・サイクス『アダムの呪い』にて再度確認し、開拓地・植民地の男女の関係のエコシステムを定義してみよう。

・更に、中野信子『サイコパス』、ジャレッド・ダイアモンド『鉄・病原菌・銃』にて、アフリカを出発した人類の軌跡と、そして一連の古代史関係の文献にて日本人のルーツとを併せて考えてみよう。

 

西部開拓時代は娼婦の需要が高かったのですが、衛生状態が整備されると家族で入植するようになりました。家庭の女性達は娼婦との差別化を望み、性の二重規範を率先して受け入れました10性の二重規範(ダブルスタンダード)とは、男性は浮気が許されるが女性は許されないなどどいう、男性と女性で異なる性の道徳観のことで、アンソニー・ギデンズ3が著書『親密性の変容』の中で指摘しました3。もし、映画の設定時代の米国に家長主義的なプロテスタントの考え方に異議を唱えない風習があるとしたら、このような家庭婦人と娼婦との差別化に基づく文化的背景が考えられるのかもしれません。

女性が少なく結婚を求める男性が多かったので、遠く離れた場所から手紙で結婚の約束をすることもあったそうです。また、危険が多いので男性の死亡率が高くかったそうですが、未亡人にも男性が次々に結婚を申し込むので、遺産を手にした女性は経済的に豊かであったそうです。結婚した女性は男性の性を残す習慣があったので、サラ・オフリー・ソローグッド・グッキン・イヤードゥリー夫人などという長い名前などが残っているそうです。3

・西部開拓時代の手紙による結婚仲介システムを調査してみよう。
・料理好きの未亡人のミステリー、何だったかな?探してみよう。

第3章 紀元 創世記

プロテスタントの聖職者(教役者という)を牧師といい、カトリックと違って妻帯は可とされています。万人司祭3といって、全てのキリスト教徒が司祭であると考えるので、牧師3を特別な聖職者と見なす感覚が薄いのだそうです。

また、プロテスタントは、もともとルターが「免罪符」に反対してカトリックから離れた宗派ですから、教会よりも神や聖書の方が重要と考えます。聖書や関係する書物について、カトリックには教会による統一見解がありますが、プロテスタントは経典が新約聖書と旧約聖書に限定されていて、解釈は個人にゆだねられていることが多いようです。

互いに愛し愛されよう。神の御意思だ

T.Jhonsonは、ピューリタンはカトリックと違って、結婚は生殖を目的とするよりも、愛情に基づく相互の協力の契約関係とみなしているといいます。11

私が神であり神が私だ

しかし、家族内にあっては夫婦関係は平等ではなく、家族の統治権は神から夫に委託されたもので「彼の家族にあっては、君主、校長、聖職者そして判事であった12」「女性は男性のために造られたのであり、女性のために男性が造られたのではない。13」と考えられていました。

そもそもなぜキリスト教は男尊女卑なのか?

この映画の演出に関しては、牧師が、妻子だけでなく自分も鞭うつシーンを入れることで、単に自分自身の男尊女卑的感覚だけで妻子に君臨しているのではなく、そのようにさせる責任が宗教的義務であると信じている狂信性を表現しているようです。

「打てば悪をたしなめ心の底まで清まる」神は暴力を否定していないのだ。

この牧師の説教にもありますが、伝統的なキリスト教の考え方は、りんごを食べた女性イブの原罪ゆえに、出産の苦しみは全ての女性に与えられた呪いと考えられていました。14

わたしはあなたの産みの苦しみを多いに増す。あなたは苦しんで子を産む。それでもなお、あなたは夫を慕い、彼はあなたを治めるであろう。(創世記第3章16節)

旧約聖書の中にレビ記3があります。レヴィ3はヘブライ語で「結びついた」という意味で、レビ族3を指します。最初の人類アダムから22代めの息子で3、曾孫のモーセのと一緒に出エジプトしたレビからスタートした一族です。レビ族のモーセが書いたものが旧約聖書のレビ記です。レビ記には主として司祭や民が守るべき決まりが書かれています15

セム語族とハム語族の由来はアダムからの系図に関連しているのだろうな。しらべてみなくちゃ。半村良『太陽の世界』のセム族ハム族の出典もこのあたりから構想を得たのだと思う。再調査要。イスラム教の規律が生まれた背景については清水義範『神々の午睡』に詳しい。

レビ記には近親相姦など性のタブーが記載されていますが、現代の一般的な感覚とは少し違うようです。例えば、古代は一族内で結婚することが奨励されており、いとことの結婚は理想的とみなされていました。また長女はしばしば、一族以外と結婚することが禁止されていました。16

男性の禁止性対象として、叔母や実姉妹、母(義母含む)、孫娘などが挙げられていますが、女性に対しても継子や義祖父などの対象が禁止事項とされています。ただ、複数の章の記述やバリエーションの中で特徴的なのは、男とその娘に対する性行為が明確に禁じられていない3ことです。

ユダヤ教の経典タルムード3では自明のことなでので記載されていないと考えられていたり、当初は記載されていたものの記載の途中で抜け落ちたという説もあります17。プロテスタントが生まれるきっかけとなった宗教改革に影響を与えたカルヴァン3は、父娘間の性関係を不道徳と見なしてはいましたが明白に禁じるものとは考えていなかったそうです18

男が我が娘に対して情熱を抱き娘が花の年を過ぎたなら望み通りにせよ。結婚も罪ではない。

・聖書のフレーズっぽいけど、出典箇所がわからない。

・映画に出てくる版画の出典も知りたい。オリジナルかな?

・ベアトリーチェ・チェンチやルクレチア・ボルジアに関する事件は、現代においては不幸な虐待として認識されているけれど、宗教的にどのように受け止められていたのか?近親相姦のタブーとOKは人類の歴史上、どのように扱われてきたのか?

ユダヤ教のルーツであるゾロアスター教関連がありそう。

エジプト王朝の近親結婚とは関係ないのかな?近親相姦と近親婚は違うんだ。

ちなみにレビの英語読みはリーヴァイ。ジーンズで有名な、リーヴァイス(Levi’s)3の創業者リーヴァイ・ストラウス3(Levi Strauss、1829年2月26日 – 1902年9月26日)は、ドイツ系ユダヤ人。1847年、ドイツから米国に移住し、1853年にはサンフランシスコで織物卸業会社を設立、1873年、金属の金具リベットで補強したブルージーンズ3の特許をとり販売を開始しました。

第4章 報復 審判

殺される主人公の夫と、殺す牧師との会話

「なぜだ。」「彼女が愛する者だから」

焼け死ぬ牧師。牧師は現代の感覚からは狂人と見なされるものの、最後の一言で、極端で異常性はあるものの彼なりの思想でプロテスタントの「男尊女卑」と「愛の結婚」システムの両立を夢見ていたことが示唆されています。これまでの愛や神に関する数々の彼のセリフが伏線となってここで回収されています。「愛」という倫理観を持つ現代人(特にプロテスタントの思想が身近な米国人)にとって、極端な場合はこのようにも愛(やプロテスタントの教義)が解釈されてしまう、というところがホラーなのかもしれません。

「耐えられぬのは煉獄の炎?違う。愛のないことだ」

映画では焼け死ぬことは地獄の火と硫黄をあらわしているのかな。

だから罪がない(浄化された?)人は水死としているのかな。
じゃ、焼け死んだ娼婦は?焼け死に損?地獄へ落ち損?

この映画は、アメリカ人を描いたものではなく、アメリカを舞台にしたオランダ人を描いたものだと考えられます。(入植したとすれば厳密にはオランダ系アメリカ人ではありますが)現代オランダ人から見たアメリカ人の印象が議論されているサイトがありました。


 

  1. Wikipedia(English)Brimstone (2016 film)
  2. Weblio
  3. ウィキペディア(日本語)エル・ファニングの姉
  4. ルーテル教会>Bible>ヨハネの黙示録
  5. Wikipedia(English)Martin Koolhoven
  6. Wikipedia(English)
  7. Weblio,brimstone
  8. ウィキペディア(日本語)1735年
  9. 独立行政法人産業研究所>Special Report>男女比が崩れた中国では本当に女性は「選び放題」なのか?>―中国北京市の婚姻登録業務データからわかった結婚の実態―
  10. 歴史教科書をどう書き換えるか? ─ジェンダーの視点からー三成美保
  11. T.Jhonson,”Convenant Idea and the Puritan View of Marriage”,Journal of History of Ideas,32(1971)pp.107-118
  12. Michel Walzer,”The Revolution of the Saints, A Study in the Origins of Radical Politics (Harbard University Press 1965),p190.
  13. Tomas Gataker,Mariage Duties Bliefly Couched Together (London,1620)p8.
  14. Godly Mother ピューリタン家族の母親像, 佐藤哲也
  15. Got Qestions>レビ記
  16. Singer, Isidore; et al., eds. (1901–1906). “incest“. Jewish Encyclopedia. New York: Funk & Wagnalls Company.
  17. Encyclopaedia Biblica marriage Manius-Mash)
  18. (John Calvin, Bible Commentary, Harmony of the Law (Vol. 3), Leviticus 18 (online version)

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