「わかっちゃいるけどやめられない」行動デザインで格差克服~「無意識バイアス」取り除く行動促す~

Yukipedia
https://www.huffingtonpost.com/2012/08/07/leland-bobbes-half-drag-makeup-photos_n_1749018.html?ec_carp=2680177557726318750&slideshow=true#gallery/55ce0edde4b07addcb42c276/33

画像出典記事 見た目が変わる(リンク)Leland Bobbé’s Half-Drag Portraits

オピニオン&フォーラム「男女平等 デザインする」新年インタビュー 行動経済学者イリス・ボネットさん1

【行動経済学】2経済学の考え方に心理学的に観察された事実を取り入れていく研究手法3,4,5

ハーバート・サイモンダニエル・カーネマンリチャード・セイラーらがノーベル経済学賞を受賞しています。セイラーはナッジ理論(ナッジ;肘で軽くつつく)の事例として男性用小便器のハエのマークに狙いを定める心理的効果によって清掃費を80%削減したことを紹介しています。

日本では行動経済学会6があります。

【実験経済学】7経済学的な問題に関して実験的な手法8を用いて研究を行います。ハーバード大学のチェンバレンによってはじめられました9。その実験に参加していた経済学者のバーノン・スミス10は、実験経済学の発展に寄与したとして2002年ノーベル経済学賞を受賞しています。(バーノン・スミスは自身がアスペルガー症候群11であることを公表しています。12)同年、心理学者のダニエル・カーネマンも行動経済学の発展に寄与したとしてノーベル経済学賞13を受賞しました。

現在、行動経済学と実験経済学は統合してひとつの分野に向かいつつあるという意見もあります。14

ハーバード大学のケネディ行政大学院イリス・ボネット教授15は、ジェンダーと行動デザインが専門で『ワーク・デザイン16』という著書があります。

ボネット教授は1枚のカーテンがバイアスを取り除いた例を紹介しています。

1970年代以降、米国の多くの交響楽団がカーテン越しに団員を審査する方法をとりました。当初はバーンスタイン始め多くの楽団監督がこの方法に反対しました。『我々は外見には左右されない。音楽の質しか気にしない』と。でも現実は、女性演奏家の割合が5%から35%に増えたのです。(中略)行動デザインが監督たちの考え方を変えたわけではありません。『外見ではなく音で選ぶ』という方法をとりやすくするように介入しただけなのです。

バーンスタイン17は、1918生まれ、ニューヨークフィルやウィーンフィルで指揮しました。ミュージカル『ウェストサイド物語』『キャンディード』の作曲者としても知られています。

言葉の印象にも行動は左右されます。

コカ・コーラ社は『ダイエット・コーク』の“ダイエット”という文言が女性っぽいという理由を男性に対する販売不振の原因のひとつと考え男性向けには『コカコーラ・ゼロ18』を発売しました。19,20,21

自分の考えに無意識にバイアスがかかっているどうかは、これまでの研究によりハーバード大学の研究者らが開発したIATテストで評価できます。このアセスメントは日本語でも受検でき、「ジェンダー」「肌の色」「セクシャリティ」「体重」「国家」「年齢」「人種」のカテゴリーでそれぞれ約10分程度で評価できます。

(リンク)IATテスト

自分ではリベラルで公平なつもりだったけれど、無意識にバイアスがかかっている(好みが偏っている)部分があることに驚き!

AITテストにより、自分をリベラルだと認識している人が無意識な差別的傾向に気づいて自分をコントロールする警告になることもありますが、元々、差別的な傾向を持っている人には効果はなかったそうです。

採用面接におけるバイアスの排除について、構造化面接法を導入すべきといいます。構造化面接法は、あらかじめ質問する内容や順番を決めておき、候補者全員に同じスタイルで聞く手法で、面接者によるバイアスや影響が少ないのですが、自由度が低くなることが難点です。

半構造化面接法は、当初のシナリの他、面接者が追加の質問をしたり説明を求めたするより自由度の高い手法で、どのような回答が戻ってくるか不明な場合に使われます。

非構造化面接法は、面接者は話の流れをコントロールしません。得られるデータを客観的に比較分析することは難しいですが、主観的で多様、豊富な情報が得られます。

その他、面接は、調査目的によって、①仮説を確認するため(仮説検証研究)または②仮説を思い付くため(仮説生成研究)に分けられたり、
人数によって、①1:1(個人面接法)②1:2(ジョイントインタビュー)③1:多(集団面接法)に分けられたり、
データ収集方法によって①会場面接法②訪問面接法③該当面接法④電話面接法⑤電子面接法などに分けられます。22

バイアスを是正する研修に効果が無い場合もあるそうです。

例えばダイバシティの研修の効果はあまりないという研究があるそうです。それどころか、研修参加が免罪符となり差別的な行動をとってもかまわないと考えるリスクもあるといいます。

ボネット教授は、一定の人数のマイノリティを割り当てるクオーター制の功罪について、ジェンダーに関連して紹介しています。

インドは憲法を改正し農村議会の3分の1を女性枠としたところ、女性議員の数は3分の1を超えました。ただ、インドに限らず女性側にはクオーター制のおかげで選ばれたと思いたくない気持ちもあるといいます。

クオーター制を導入しなくてもメッセージの伝え方で行動を変えることができた事例も紹介しています。

英国政府は、代表的な企業100社の女性取締役の割合を25%以上に高めるにあたって、「全取締役に占める女性の割合は12.5%に過ぎない」から「94%の企業に取締役がいる」というメッセージの発信に変えると自然に25%を超えることができたといいます。


 

  1. 朝日新聞2019年1月11日 オピニオン&フォーラム新年インタビュー「男女平等 デザインする」行動経済学者イリス・ボリットさん
  2. ウィキペディア(日本語)行動経済学
  3. 大垣昌夫; 田中沙織 『行動経済学:伝統的経済学との統合による新しい経済学を目指して』 有斐閣、2014年。ISBN 978-4641164260
  4. 大竹文雄、「行動経済学:伝統的経済学の枠組みを広げて現実の人間行動を描写する」 『総力ガイド!豪華61人の経済学者による徹底解説 これからの経済学 マルクス、ピケティ、その先へ』 日本評論社〈経済セミナー増刊〉、2015年、90-91頁。
  5. Rabin, Matthew (2002), “A perspective on psychology and economics”, European Economic Review46: 657 – 685
  6. 行動経済学会公式ホームページ
  7. ウィキペディア(日本語)実験経済学
  8. Including statistical, econometric, and computational. On the latter see Alvin E. Roth, 2002. “The Economist as Engineer: Game Theory, Experimentation, and Computation as Tools for Design Economics,” Econometrica, 70(4), pp. 1341–1378 Archived 2004年4月14日, at the Wayback Machine..
  9. Chamberlin, Edward H., 1948. “An Experimental Imperfect Market.” Journal of Political Economy, Vol. 56, No. 2 (April), pp.95-108
  10. ウィキペディア(日本語)バーノン・スミス
  11. ウィキペディア(日本語)アスペルガー症候群
  12. Herera, Sue (2005年2月25日). “Mildest autism has ‘selective advantages’”. MSNBC. 2006年3月27日閲覧。
  13. ノーベル経済学賞
  14. 大竹文雄; 亀田達也; グジェゴシュマルデワ; 川越敏司 「行動経済学の過去・現在・未来」、『行動経済学』 第9巻46-64頁、2016年
  15. Wikipedia(English)Iris Bohnet
  16. WORK DESIGN(ワークデザイン) イリス・ボネット (著), 池村千秋 (翻訳)
  17. ウィキペディア(日本語)レナード・バーンスタイン
  18. Wikipedia(English)Coca-Cola Zero Suger
  19. “Should Men’s Products Fear a Woman’s Touch?”. HBS. November 13, 2013.
  20. Tungate, Mark (2008). Branded Male: Marketing to Men. London and Philadelphia: Kogan Page Limited. pp. Chapter 3. ISBN 978-0-7494-5011-3.
  21. Jump up to: a b c Elliott, Stuart; March 5, 2007; “Can’t Tell Your Cokes Apart? Sue Someone“; The New York Times; retrieved March 6, 2007.
  22. 調査的面接法の分類

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