『The Queen’s Fool』Philippa Gregory

『愛憎の王冠  The Queen’s Fool』

         Philippa Gregory

メアリー1世女王、エリザベス1世女王に仕える女道化師からの視点で、この時代の宮廷を描きます。

ブーリン家の姉妹2 愛憎の王冠The Queen’s Fool14 2003(集英社文庫 加藤洋子訳)上巻、下巻

スペイン王の次の一手

スペイン王フェリペ1(1527-)英語読みはフィリップ。アラゴン女王イザベラの孫カルロス5世の子。
結婚相手のメアリー1世2(1553-)の母キャサリン・オブ・アラゴンは、アラゴン女王イザベラの娘なので、メアリー1世から見てフェリペはいとこの子となります。結婚した時は、夫27歳、妻38歳でした。

妻メアリー1世に子供が生まれない場合、イングランドの王位継承権の上位は、メアリー1世の腹違いの妹エリザベス王女か、メアリー1世の従妹でフランス王妃かつスコットランド女王のメアリ女王にあります。
カトリックのスペインにしてみれば、プロテスタントのエリザベスは好ましくありません。また、メアリー1世が正嫡ならばエリザベス王女は庶子で、ヘンリー8世やエドワード王の王位継承者認定の宣言はあるものの、カトリックでは原則として庶子は王位継承者にはなれません。メアリー1世の母と離婚しエリザベスの母と結婚するためにヘンリー8世がカトリックから離反した経緯もあります。
逆に、スコットランドのメアリー女王はカトリックであるものの、フランス王の王妃であり、メアリー女王がイングランド王位を継承すると、フランスにイングランドが取り込まれることになります。カトリックの大国同士のライバルであるスペインには好ましくありません。

イングランドのメアリー1世女王に嫡子が誕生すればイングランドを取り込めるスペインとして最もハッピーな結末ですが、メアリー1世の女王の年齢から子供が誕生するのは難しいと考えられ、スペインとしては、どのように次の一手をうつか難しいところです。

宮廷道化師

イギリスでは宮廷道化師を抱えていました3。おどけた芸や風刺で笑わせるのが仕事なので、宮廷の廷臣とは違う立場で、王には耳の痛いような皮肉や批判なども、芸の範疇としてなら自由な言動を許されました。とはいえ、公式は立場は低く、本書では、主人公に女王の足元のペットと同じと言わせています。

『リア王』など、シェイクスピアの戯曲にも登場します。

本書にも登場するウィル・ソマーズ4は実在の宮廷道化師です。ヘンリー8世にかわいがられ、その死後も宮廷にとどまりました。最後の公式記録は1558年のエリザベス1世女王の戴冠式ですが、その後1560年に亡くなったとの記録があるそうです。

Henry the Eighth and His Family (1545)public domain

上記の肖像画には左から、女道化師Jane、メアリー王女、エドワード王子、ヘンリー8世、ジェーン・シーモア王妃、エリザベス王女、道化師ウィル・ソマーズが絵が画れているといわれています。

歴史作家のアントニア・フレイザーによると、女道化師のJane Beden5は、アン・ブーリンの頃から宮廷にいた記録があるそう6。キャサリン・パーの宮廷ではジェーン・フーリーとしてよく知られていたとか。戴冠前からメアリー1世女王に仕え、ウィル・ソマーズと結婚していたという説もありますが確定的な根拠はありません。男のように髪を刈りこんでいたそうです。

また、Lucretia the Tumbler(曲芸師ルクレチア)という女道化師も宮廷にいた記録があり7,8、上記のJaneの世話係か友人ですが、Janeとは違い、よく訓練されたエンターテイナーだったそうです9

著者フィリッパ・グレゴリーはこの物語の主人公の女道化師ハンナ・ベルデは創作と言っていますが、これらの女道化師達を混ぜ込んで反映しているかもしれません。

17世紀スペインでは小人症の人を宮廷道化師として召し抱えられていたそうです10
映画『エリザベス』には、スペイン系のメアリー1世女王の側近やエリザベス1世女王の侍女として小人が登場していました。

(サイト内リンク『エリザベス』)

ウィキペディア(英語版)には、古代エジプトや中世ドイツの道化師の他、日本の大名に仕える「太鼓持ち」や「男芸者」が紹介されています。

In Japan from the 13th to 18th centuries, the taikomochi, a kind of male geisha, attended the feudal lords (daimyōs). They entertained mostly through dancing and storytelling, and were at times counted on for strategic advice. By the 16th century they fought alongside their lord in battle in addition to their other duties.                            Wikipedia(English)Jester


 

  1. ウィキペディア(日本語)フェリペ2世(スペイン王)
  2. ウィキペディア(日本語)メアリー1世(イングランド女王)
  3. ウィキペディア(日本語)道化師
  4. Wikipedia(English)Will Sommers
  5. Wikipedia(English)Jane Foole
  6. Fraser, Antonia (1995). Henrik VIII:s sex hustrur [The six wives of Henry VIII] (in Swedish). Translated by Eklöf, Margareta. Stockholm, SE. pp. 255, 394
  7. John Southworth (30 November 2011). Fools and Jesters at the English Court. History Press Limited. pp. 108
  8. On The Trail Of Jane The Fool by Denise Selleck
  9. The Queen’s Fools
  10. ウィキペディア(日本語)宮廷道化師

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