増大するあなたの価値、無力化される私:婚活パーティにおけるフィールドワークを通じて
東京都立大学 高橋勅徳(日本情報経営学会誌Vol.40 No.1・2第164号2020年5月)
44歳男性公立大学准教授の筆者(もちろん独身)は、自身が婚活パーティに参加することにより分析しています。文化人類外のフィールドワーク研究からはじまったエスノグラフィーは、特定の世界に生きる当事者からの視点を研究に活かす手法です1。「自己エスノグラフィーautoethnography」という手法では、研究者自身も世界に生きる当事者とみなし、自分自身の経験を対象化して分析する手法です。2
高年収男性を集めた婚活パーティでは、若く見栄えのよい男性に女性が列を成す現象が見られました。ある程度条件を満たすパーティでは、その条件が平均化され無力化されてしまい別の付加価値が必要とされると分析しています。
年齢差OKの女性を集めた婚活パーティでは、比較的若い方であった筆者がマッチングが成立した女性とデートを重ねサービスすると、自身をつけた女性がもっと若い男性にも自分が通用するのではと思い始め交際を中断されました。婚活パーティは度々開かれているので、ある程度の条件でマッチングすれば更なる好条件が入手できるのではないかと決定を先送りにしてしまうと分析しています。
同じ趣味の男女を集めた婚活パーティでは、「アウトドア」とか「つり」とか大まかな共通事項だけでは話が弾まずマッチングが成立しませんでした。例えば、同じスポーツ嗜好でも「筋トレ」の好きな人と「テニス」が好きな人とは話がかみ合わず、会話そのものすら拒絶するといいます。趣味(ライフスタイル)を重要視している参加者にとっては、大まかな共通事項は当然として「どこそこの海岸でのサーフィン」「フライフィッシング」など、もっと具体的な共通事項(マイクロ・マッチング)が必要で、それがなければ、条件に満たないとし連日開催されている次の出会いパーティに決定を先送りにすると分析しています。これも、趣味という条件が平均化され無力化されてしまい、更なる付加価値が必要な例ともしています。
以上から、条件をそろえることで平均化し個々の特徴を無力化するうえ、絶え間なく次の可能性を提示することで決定の先延ばしを可能にし、逆に婚活パーティを主催する結婚情報サービス(企業)自体が、結婚不可能性を生み出していると、著者は分析しています。
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