『樹木たちの知られざる生活』森林管理官が聴いた森の声

樹木たちの知られざる生活

『樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声』 (ハヤカワ文庫NF) 文庫 – 2018/11/6 ペーター・ヴォールレーベン (著), 長谷川圭 (翻訳)1

たくさんの木が手を組んで生態系を作り出せば、熱さや寒さに抵抗しやすくなり、たくさんの水を蓄え、空気を適度に湿らせることができる。木にとってはとても棲みやすい環境ができ、長年生長を続けられるようになる。だからこそ、コミュニティを死守しなければならない。木が一本一本自分のことばかりを考えていたら、多くの木が大木になるまでに朽ちていく。(「友情」より)

1964年ドイツのボン生まれの著者は、大学で林業を専攻した後、営林署で働き、その後フリーランスで森林管理の仕事をしています。2015年に出版されたこの本は、ドイツでベストセラーとなり、34ケ国語に翻訳されました。

森林や木々を愛する著者は、様々な科学的根拠に基づいた教育を受けており、本書にも根拠になる論文がいくつか紹介されていますが、時折、上記のような擬人的な表現も使います。それが、一般の人々に読まれてベストセラーになる理由とも考えられますが、一部の書評などでは、「木自身が本当にそんなことを考えているのか」とか「思い込みや仮説を強引に説明している」という専門家(自称?)からの指摘もあります。

例えば、フィトンチッドなどの化学物質について、著者は木のコミュニケーションと表現しています。人間のコミュニケーションが科学的に分解すると電気信号の伝達であることを考えれば、このような比喩的表現にすると理解しやすくなると思います。半面、専門家は、このような表現を、専門的知識がない人々がうのみにして、本当に人間が口頭でするように木々がコミュニケーションしていると思い込んでしまわないか危惧しているかもしれません。

数本だけがほかの仲間から遠く離れて完全に孤立した場合には、多様性が失われて抵抗力が弱まり、数百年後には死滅してしまうだろう。(「愛の営み」より)

 

およそ40年前、アフリカのサバンナで観察された出来事がある。キリンはサバンナアカシアの葉を食べるが、アカシアにとってはもちろん迷惑な話だ。この大きな草食動物を追い払うために、アカシアはキリンがやってくると数分以内に葉の中に有毒物質を集める。毒に気づいたキリンは別の木に移動する。しかし、隣の木に向かうのではなく、少なくとも数本とばして100メートルぐらい離れたところで食事を再開させたのである。どうしてそれほど遠くに移動するのか、そこには驚くべき理由があった。(「木の言葉」より)

最初に食べられたアカシアが有毒物質に加え、エチレンガスを発散します。そのガスに触れた近くの木々は、未だキリンに食べられていないにもかかわらず有毒物質を生産しはじめるので、キリンが次の木に移る頃には食べられません。それを知っているキリンはガスが届きにくい風上の木に向かって(キリンとしては風に逆らって)移動するというのです。

他にも害虫種類を唾液の成分によって分析し、その害虫の天敵が好きな成分を発散する例を、ニレマツの木が蝶や蛾の幼虫を食べるハチの匂いを発散する事例2で紹介しています。

また、化学物質だけでなく、木の値や菌類をとおして電気信号も送られている可能性があるそうです。そのような森中に広がるネットワークをWood Wide Webといいます。3,4,6

Schütz, J.Ph ; “Skript Waldbau Ⅱ”

樹種   経済林の伐期  原生林での寿命
トウヒ    110年      350年
ブナ     120年      250年
モミ     120年      450年
ミズナラ   160年      300年

時間(年数)と生長度合い(㎝、m)を比較したSchütz, J.Ph7の研究も紹介しています。樹高の生長のピークは40~50年ですが、その後も幹の直径は生長を続け、どっしりと安定した倒れにくい形になっていきます。

屋久島のヤクスギ5は、花崗岩に生えており栄養分が少なく生長が遅いうえ、湿度が高いので樹脂が多く腐りにくいので、樹齢2000年以上の大木がたくさんあります。最大級の縄文杉5の年齢は5000年~7000年とも言われています。

日本の杉、檜は、40~50年で伐採していましたが、国有林ではスギ普通伐期林で40年を60年に、長伐期林で70年を100年に、ヒノキで45年を70年に、80年を120年に逐次移行していくこととをしていたり、長期保全について考えられるようになってきました8

 

 

(リンク)森林・林業学習館
(リンク)森林再生、日本林業の復活のためには・・・~ドイツからみた日本
(リンク)林野庁

  1. 樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声 (ハヤカワ文庫NF) 文庫 – 2018/11/6 ペーター・ヴォールレーベン (著), 長谷川圭 (翻訳)
  2. Anhuauser,M.Der stummer Schrei der Limamone, in MaxPlanckForschung 3/2007,p64-65
  3. Wood Wide web
  4. The New Yorker>The Secrets of the Wood Wide Web>By Robert MacfarlaneAugust 7, 2016
  5. Wood Wide Web – “connect / listen”[/note]

    植林された気は最高でも80年から120年で伐採されるが、この数字に惑わされてはならない。野生の樹木は100歳前後でも鉛筆ほどの太さで、背の高さも人間程度しかない。(「ゆっくりゆっくり」より)

    ゆっくり生長すると内部の細胞がとても細かく、空気をほとんど含まないので、柔軟性があり折れにくくなります。抵抗力も強く若い木が菌類に感染しにくいそうです。森の若木は成長できる能力はあるものの下の方は光が届かないので、ゆっくりしか生長できないことが、逆にそのような木質を作り出すそうです。

    ドイツ在住のShuji氏は、ブログでヨーロッパの経済林における生産期間(伐期)と、天然林における一世代の寿命を比較を紹介しています。5樹種別の寿命と樹高、直径成長

  6. Schütz, J.Ph ; “Skript Waldbau Ⅱ”
  7. 九州森林管理局 > 森林への招待 > 森と木のQ&A > 問20

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